コラム

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高校の魅力化と地域の将来を担う人材育成を目指す町営塾。

まちなか鳳雛塾

能登高校魅力化プロジェクトの一環として、将来の地域を担う人材育成を図るため開設された町営塾です。タブレットを活用した学習アプリや動画教材での自習をメインとしながら、生徒ひとりひとりの視野を広げ、考えを深めることを目的とした「まちなかゼミ」や、能登町の自然や食文化、歴史、生業を通して町を知る「鳳雛ゼミ」といった課外学習の場も提供しています。


鳳雛塾のなりたちは?

2014年、能登町唯一の高等学校「能登高校」内に、生徒が無料で利用できる放課後自習室が生まれました。きっかけは長年続く人口減少による過疎化と、若者世代の町外流出。「能登町から高校が無くなってしまうかもしれない」という危機感が町全体に広がっていました。町から高校が無くなると若者の町外流出がさらに加速し、若年層に関わるさまざまな産業に大きな影響を与えるのは明白。他の自治体の試算では高校がひとつ無くなると年間1億円の経済的損失がもたらされるというデータもあるくらい、小さな町にとっては大きなダメージなんです。

元々、能登町には3つの高校と1つの分校がありました。ところが地域の少子化の影響によって統廃合が繰り返され、2009年にはついに能登高校1校だけとなってしまいます。そこで町に暮らす有志の方々が立ち上げたのが「能登高校を応援する会」。多額の寄付と補助金によって毎年1,000万円近くの金額を集め、部活動や通学にかかる費用や奨学金の立ち上げなど、町ぐるみで能登高校に通う生徒を支援してきました。しかし、生徒数の維持は難しく、入学者数は毎年落ち込み、定員も縮小してきました。さらに地元の中学生が町外の高校を受験する割合も大幅に上がり、いつのまにか町内中学卒業生の能登高校進学率は3割以下まで落ち込んでしまいました。

どうにかして町の中学生たちに能登高校へ進学してほしい。「鳳雛塾」はそんな町の人たちの願いによって生まれました。

 

どうやって生徒を集めたんですか?

能登高校が地元の中学生や保護者から選ばれる学校になるためには、なにより学力を保証しなければいけません。そんな中で当時の能登高校の教頭先生が考えたのが、情報通信技術を活用したICT教育が受けられる自習の場を作ること。大学受験や公務員試験の対策ができる学習プログラムを用意することで、生徒たちの学習意欲も高まりました。

その結果、大学進学を目指す生徒が増え、進学実績の強化とともに入学者数は年々増加。3割以下まで落ち込んだ地元中学生の進学率は5割まで回復し、長らく定員割れが続いていた入学試験も2018年には普通科の倍率が1倍を超えました。

2016年に「まちなか鳳雛塾」がスタートしました。

生徒たちから「もっと集中して学習できる環境が欲しい」という要望もあり、能登町が始めた「能登高校魅力化プロジェクト」の一環として再スタートを図りました。それまでは開講日が少なく勉強する時間も限られていましたが、旧公民館をリノベーションした自習室で夜10時までじっくり学べるようになりました。

現在の生徒は約80名。熱心に勉強する高校生の姿を見て学んで欲しいという思いから、小中学生も受け入れるようになりました。開講時間は平日の放課後と土曜日。あくまで学校の勉強を補うための場なので自律的な学習がメインとなっていますが、わからないところは常駐するスタッフに聞いたり、提携しているWebサービスを使ってすぐに質問できる仕組みになっています。

 

まちなかゼミについて教えてください。

私がこのプロジェクトに携わるようになった2018年から取り組んでいる新しい学びのかたちです。普段の教科学習から少し離れて、物事を論理的に考える思考やそれに基づいた適切な選択や判断をする力、コミュニケーション力、グローバルな視野などを養ったりと、自分の意見を表現できる機会を増やしたいと思い始めました。

たとえばとある日は「未来のことを知ろう」というテーマで、これまでの100年のこと、これからの100年のことを学び、その上で未来に向かってどうすれば良いのか。この3つについて話し合いました。もちろん正解はありません。ただ、現実として「今の高校生の多くは22世紀まで生きることができる。人生100年時代が到来する。」という予測を伝えたあと、これまでの100年間は二つの世界大戦、戦後の復興と経済成長、バブル崩壊、インターネット社会、科学技術の急速な進歩など、時代の大きな変化を経験していることを説明して、そのことを踏まえて高校生の今取り組むべきことを考えてもらいました。

ゼミ後の会話では学生たちの「学校の授業とは違って答えがない話。どうしたら良いのか自分で考えないといけないと思った」といった声をよく耳にします。学校教育の枠に収まらない講座ですが、未来を生きていく力を育むためには「考える力」だけでなく「なぜ考えなければならないのか、学ばなければならないのか」を理解しなければなりません。「まちなかゼミ」を通じて考えることの大切さと楽しさを知り、それがいつか社会に出たときの糧になればと思っています。

町と高校との連携で行われるプロジェクト「鳳雛ゼミ」も始まりました。

能登高校と能登高校魅力化プロジェクト・まちなか鳳雛塾の協力によって行われる課外学習の場です。2018年度は能登町や能登高生にとても身近な「海」を共通テーマにして4回シリーズで実施しました。海を通して能登町を知り、海を通して就業意識や勤労感を育む。普段、学校で勉強している教科学習とは少し離れますが、どれも将来に役立つ内容だと思います。

実際に第1回に参加した能登高校の生徒からは「この町に住んでいても知らないことがたくさんあった。次は友達にも呼びかけて一緒に参加したい」という声が上がりました。僕自身もプログラムを作るために能登町のことを勉強しないといけません。中途半端なことは生徒に伝えられないというプレッシャーは感じています。

また、こうして高校と地域との繋がりを設けることで、町の人の出番を作るのも「まちなか鳳雛塾」の役目だと思います。協力したいと思っていても、何をして良いのか分からない人はきっと多いでしょう。

能登高校の生徒の多くが進学や就職で一度は能登町を離れます。そしてその先にもし地元に戻るか戻らないかの決断を迫られたとき、高校時代の町の人たちとの関わりは大きく影響を与えるはずです。

生徒たちに「大学を卒業したら地元に戻って働きたいか?」と訊ねると、ほとんどが「はい」と答えます。でも、この町でなにができるか、なにをしたいかを話せる生徒はあまりいません。そうしたズレをなくすためにも、能登町に住んでいるうちに町の人と接する機会や町の良いところや課題に触れる経験を少しでも与えてあげたいと考えています。

これからの目標は?

奥能登ではこれから更なる人口減少と少子化が予測されている中で、能登高校が今後も存続していくには今以上に個性や魅力をもった学校になる必要があるのではないかと感じています。私には小学1年生になる息子がいますが、今の小学生が高校生になる頃に「面白いことを学べそうだから入学したい」と子どもが自分から言うくらい魅力的な学校として能登高校が存在しているといいな、と思います。能登高校には農場も船もあるので、大学進学のための勉強をしながら、ときには船に乗って海に出たり農場で土を触ったりすることができたら、きっと魅力的ですよね。これからは大学入試も学力だけではなく、高校三年間でどんな体験をして何を考えてきたかが重要視される時代になります。多様な経験ができる能登高校というフィールドで学ぶことは子どもたちにとっても人生のプラスになるはずです。この先も「能登高校の魅力化」を町のプロジェクトとしてサポートし、生徒たちが幅広い視野・視点と思考力をもち未来社会の課題を解決していく力を育む場を作っていきたいです。

 

今回、お話を聞いたのは?

木村聡さん
兵庫県出身。大手教育企業の社内研究所に勤めながら、石川県穴水町での農漁業体験ツアープログラムを企画運営するNPOに参加。十年ほど前から年に3~4回は能登を訪れる生活を送っていた。2018年、能登町にIターン。能登高校魅力化プロジェクトのコーディネーター・まちなか鳳雛塾のスタッフとして、教育と地域をつなぐプログラムを仕掛けている。