コラム

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地方の人は、気さくで愉快でエネルギッシュ。
日本の地方に心を奪われ、食の新事業に飛び込む。

水上 志都さん(みずかみ しづ)

茨城県(古河市)出身、昭和44年生まれ。化学メーカー、研究所助手等を経て、前職はインターネットセキュリティ大手のプロダクトマネージャー。平成22(2010)年第11回キャリアデザイン大賞受賞。


日本の良い所ってどこだろう?

能登町に移住してきたのは、地域の仕事をしてみたいと思ったからです。前の会社では、海外と仕事をすることがすごく多く、彼らと話すと、やはり日本の話になることがありました。結構、旅行で日本に来たりもしていて、「日本って、ここがいいよね。あそこもね」と言われ、「外から見ると、そういう所が良いんだな」と気付かされました。

10年ほど前からは、自分でも国内への旅行が多くなっていき、「彼らが言ってることは、確かにそうだな」と思うことがいっぱいあった。旅行の本に載っていない所にも、ぶらっと行ってみると、そこにもいいものがたくさんあったりする。

買いものにしても、東京でも同じものは買えるけど、そこに行って買うと話が聞けて、同じトマト1個でも、紅茶1つでも、行ってみないと分からないこと、「あっ」と思うことがありました。

地方への旅、土地の人との会話が始まる。

旅をしていて面白いなと思ったのは、まず向こうが話しかけてくるんですよね。「どこから来たの?」 母と一緒に行った時は、「お母さんですか、じゃあこちら娘さん? 女二人親子で旅行なんて、いいですね」と、ひとしきり話が始まっちゃう。宿の人もいろいろ話してくれて、フレンドリー。こちらからヒアリング、って感じでは無かったですね。

とにかく、「意外とみんな元気なんだな」と。不便な所だろうと思うのに、おじいちゃんおばあちゃん、みんな元気。そして、皆さん気さく。「地域の人って、元気だな」と印象的でした。

「都市部じゃない所で頑張ってる人って、すごくエネルギッシュで楽しそうだな」と感じ、「地域の仕事に就いてみたいな」と思うようになりました。

地域の仕事って何があるんだ?

だけど、地域の仕事に何があるのか、そもそも分からない。調べていたら、立教大学の大学院の観光学部で、地域経営をする人たちに向けた科目履修の週末プログラムがありました。講師は大学の先生だけじゃなく、実際に携わっている方による授業もあり、すごくためになりました。

地域の仕事って、たとえば農産物も収入源かもしれないし、会社もその一つかもしれない。「観光だけが地域の仕事じゃないんだな」と分かってきます。

そこで、「地域を少し限定してみないか」というアドバイスと共に、実際の仕事としていくつかの場所を紹介いただきました。

かつて、「食」を意識するようになった出来事

私、小学校1年生からの5年間、富山市にいたので、何となく「北陸っていいな」と思っていたんです。5年生の時に神奈川県平塚市に引っ越して思ったことが、「お魚とお水が不味い」でした。流通で地方の魚もちゃんと入ってくるけれど、やっぱりちょっと高くて、美味しくなかった。そして、蟹は高価であることを、平塚に行って初めて知りました。あとは、黒造りがない。ます寿しがない。昆布巻がない。

今思うと、あれが、「食べる」ことを意識した最初だった。「違いがあるんだ」と知ったんです。その時の「富山に居たかった」記憶がなければ、移住先を選ぶ時にも北陸とはたぶん言わなかったでしょうね。

海も山もある北陸。食も豊か。

北陸には海と山の両方があって、そして秘境感がある。関東の人は、ブリなど北陸の海産物は食べてるんだけど、富山・石川・福井の場所はよく分からなかったりします。

「北陸が面白いかな」と、紹介いただいた場所のひとつが能登でした。能登は、食材も、観光資源もあって、資源が豊か。世界農業遺産にもなっている。頑張ってる方もいっぱいいるんだよ、と紹介されました。

最終的な決め手は、人だった。

能登を訪ねて、今の社長である福池や、笹野さん、いろんな方とお会いするうちに、「地域だからって、舐めてかかっちゃイカンな」と思いました。やはり皆さん経験豊かだし、「こうしたい」というビジョンや確固とした考え方をお持ちです。表現や、やり方は皆さん違うんだけど、こんなに小さい場所なのに、人の多様性で考えるとものすごく面白い方々がいっぱいいらっしゃった。実は、最初に能登町に来た時に、町長さんや役場の課長さんが出迎えてくれ、裏を返せば「あ、それだけ必死なんだな」とも感じました。

紹介してくれた先生方やいろんな方にお会いして話をする中で、「やっぱり、最後の決め手は人だよね」と言っていたのはその通りでしたね。

移り住むことを、あえて選択。

あとはノリです。「能登、いいかな」と思った時に、どうせ能登に行くなら、じゃあ能登町だ。海も山もあるし。そんなに人が居ないスカスカ度合いもいい。それに、私、名前に「都」が付くんですが、合併前の「能都町」にも都の字が入っていたと聞いて、そういう所にたまたま行けた巡り合わせもあるんじゃないかと決めました。

当初、首都圏に住んでいる方からは、「移住しなくても、地方の仕事はできるんじゃないか」というアドバイスも受けました。でも、移住先候補のいくつかの場所へ実際に足を運び、お話を伺う中で、無責任にならない形をとろうと思いました。

食にまつわること。これからの仕事。

能登の里山里海は、世界農業遺産になっていますよね。能登には、昔から変わっていない価値があるからこその遺産認定です。

日本は国土もさほど広くなく、多民族国家でもないのに、これほど多彩な食文化を持つという面白い国です。食に対する日本の職人の追求、探究も、世界が目を見張るレベルの高さ。時には母国で食べるより、日本の海外食レストランのほうがおいしいという声も聞くほどです。その一方で、食生活が直近のたった30年間で、魚から肉へとこれだけの変化を見せた国も日本だけ。

これからは、食べること自体を考えて、選択して食べるということがますます大切になります。選ぶ裏付けを、きちんとしていってあげる必要があります。

奥能登には、いいものがたくさんあると信じているので、この会社で、それをやっていきたい。

ヨソ者の視点で面白がりつつ

まずは、世界農業遺産の要素になっている民俗行事のあえのことや、夏のキリコ祭りなども、ちゃんと見てみたいですね。職場のある宇出津にも「あばれ祭り」というキリコ祭りがあって、特色ある大きな祭りです。

能登の祭りのときの「ヨバレ」って風習は、とても面白いですよね。ただ、観光客で来られた方は、夜、食べる所がないでしょう。お膳を多く準備してる家では余らせちゃったりするんだし、いっそチケット制にして、「ここは行ってもいいヨバレだよ」、「このチケットで来ました」みたいにするのも、きっと面白い。地元の人も気軽に話しかけてくれるし。

「面白い」って言っているうちは、まだまだ外から見ている目なので、お客さんの気分が抜けてないかなとも思いつつ、私から見ると、すべてが面白いです。

空き家が増え、景観が壊れていくのは残念

あとは、地域の空き家をどうにかうまく使えたらいいですよね。来始めた頃から思っています。里山の立派なお家の瓦が落ちていたり、家の中まで草が生えているのを見ると、仕方がないことがたくさんあってそうなっているんでしょうが、本当に勿体ないなと思います。

ああいう古い造りの家は、いったん新しい家に建て替えてしまったら、もうそれまで。あの家があってこその里山の風景も、空き家が傷んで崩れれば一緒に崩れてしまいます。外から来た者の勝手な意見ですが、せっかくあそこまで田んぼをきれいにして、本当に絵になるくらい綺麗な場所なのに、勿体ない。

空き家を放置させないためには、もし許されるなら、たとえば夏は山側に住んで、冬は雪の少ない海側に住むといった、町内の2地域居住という方法はどうかと考えてみています。

都会とは違うけれど、快適な暮らし。

移住して1ヶ月の頃に東京で友だち何人かと食事をし、その子たちや両親からも、「不便じゃない?」と聞かれました。でも、暮らしやすいんですよ。東京と同じ生活をするには、伊勢丹もルミネもアトレもないし、東急ハンズもない。大きなスーパーもない。ちょっとご飯を食べに行く場所や、お茶をしに行く場所もそんなにない。ないものを挙げればいっぱいある。

でも、東京と同じ生活をしようと思ってこっちに来てないんですよね。不便って感じることは、今のところまだない。快適ですよ。

私は食べることも好き。うちは両親とも魚に詳しくて、母は「魚を捌きたい」と魚屋でパートをしていたくらいなんですが、いまこうして、海に近く、海産物が安くておいしい能登町に私が住むことになり、すごく羨ましがっています。

夜更かしもしてなくて、本当に健康的な生活をしています。おすすめのプールがあると聞いたので、今度行こうと思っています。

人はつながっている。大切にしていきたい。

テニスも盛んな町だし、釣りをしている人も多い。いいゴルフ場が多いとも聞いているので、楽しみにしています。先日もうちの社長に、「来週8時だから!」って言われて、「え?どこに?」。そうやって声を掛けていただき、皆さんにいろいろ誘っていただいています。何かとさりげなく馴染むようにしてくださっているのが、ありがたいです。

能登への移住者も意外と多いですね。知り合いの方から「会いに行ってみたら?」と紹介いただいた移住者さんは町内の方ですし、別の町外の移住者さんも、学校で色んな相談にのってくれていた方のお知り合いでした。人のつながりってすごい。調べたり探したりすると、いるんですよ。

そういう、人のつながりは大事にしたいな、とつくづく思っています。