川畑 慎太郎(かわばた しんたろう)さん
能登町曽又出身。関東の大学卒業後、神奈川県の輸入雑貨・家具屋に勤務。その後、群馬県、埼玉県、茨城県で暮らし、40歳を前にUターン。現在は農業を生業に米、野菜を栽培。農家民宿群・春蘭の里青年部部長として学生たちと地域を盛り上げる。
アメリカンカントリーが気に入り、輸入家具屋に就職
能登町曽又生まれ。中学3年まで過ごし、高校からは七尾市で下宿しました。関東の大学へ進学し、その時に神奈川県の輸入雑貨・家具屋さんでアルバイトをはじめました。ちょうどアメリカンカントリーが流行っていた時期です。田舎風の素朴な感じのものですね。その雰囲気が気に入り、大学卒業後はそのまま就職。輸入雑貨と家具の卸業として、全国の雑貨屋さんに商品を卸し、アメリカまで買い付けに行ったこともありました。
その後は群馬県の家具屋に勤め、次の埼玉県では家具を作る仕事に就きました。職人ってほどでもないんですが、材料を切って組み立てていましたね。
バリ島の暮らしに憧れ、波を求めて茨城県に移住
群馬県にいた時にサーフィンを始めたんですね。その頃から茨城県の海に通っていました。サーフィンをしにバリ島に行ったことも。バリの町中を歩くと、男の人たちが地べたに座ってのほほんとしてるじゃないですか。あの光景、なぜか男の人ばっかり。それを見て「海で生活するのもいいな」って。家具の仕事に疲れてきていたので、のんびりとした海の生活に憧れて茨城県に行きました。
40歳を前にUターン、就農し土づくりを学ぶ
長男ですから「いずれは地元に帰ろう」と思いながら働いていましたが、帰るきっかけがなく。40歳を前にして、そろそろ結婚もしないとダメだろうなという気持ちもあり、2012年4月1日に帰ってきました。 もともと実家が兼業農家。こっちで生活するんだったら専業農家でやっていきたいと思っていました。わざわざ遠いところへ仕事に行くのも嫌だし、これまでも自分でできるような仕事ばかり選んできたので。農家で育ったものの、学生の頃はあまり手伝いをしていなかったので、本格的に農業を始めたのは帰ってきてからです。
帰ってきてすぐの頃は時間があったので、たまたま新聞で見つけた金沢大学の「里山里海マイスタープログラム」を受講しました。そこで土づくりに力を入れる西出先生と出会い、西出農法を学びました。化学肥料はほとんど使わず、「ぼかし肥料」は手作り。油かす、米ぬか、魚粉、骨粉などを混ぜて、微生物調整剤を入れて作っています。
就農して5年。最初の2年は米づくり、3年目から野菜のハウス栽培を始めました。
結婚、子育て、のびのびとした暮らしが魅力
マイスタープログラムで知り合った奥さんと結婚したのは3年ほど前。息子が生まれて、今1歳5カ月です。40歳になってからの子どもだからかもしれないけど、「子どもってかわいいなって」。子育てする環境として能登は良いと思います。自然の中でのびのび暮らせる。保育所の待機児童はないですし。都会の生活で嫌だったのが、アパートの隣人の気配や隣接する家々。堅苦しい生活が全く魅力的ではなかったんです。 3世代同居もいいですよ。自分の両親がいると、困ったときに一緒に解決できますしね。嫁がどう言うかはわかりませんけど(笑)。
農家民宿群「春蘭の里」を学生と盛り上げる
能登町にある農家民宿群「春蘭の里」を経営している方々の年代は70代なんですよ。春蘭の里自体を維持していくために、若い人の力を借りたいと事務局長から声をかけられました。春蘭の里青年部は昨年の12月に立ち上がったばかりです。
今は県内の学生団体と一緒に春蘭の里を盛り上げる活動をしています。例えば、これまでは囲炉裏を囲んで、輪島塗の御膳でご飯を食べて、次の日には帰るか輪島の朝市に観光に行ってしまう、というのが定番でした。あともう1泊、2泊滞在してもらえるような面白い企画を学生たちと考えています。
学生と関わり、地域を学ぶ大切さがあらためてわかった
今の学生さんは、中学・高校で地域の勉強をしていますよね。だからなのか、能登に関心を持って来てくれる学生さんは、「いずれ自分の田舎に帰ろうと思っています」と話していたんです。俺らの時は、学校の授業は受験一辺倒で数学や国語の勉強が中心。親世代は「ここにおっても仕方ない。出て行け」っていう人が多かった。
今地域に残っている同世代は本当に何人かだけなんです。この辺りはおばあちゃんの一人暮らしが多い。何でみんな帰ってこないのかなって、不思議なんですよ。学生たちのように「自分のふるさとを大事にする」そういう意識に変えるって、難しいですよね。だれか移住してくれないかな。
イタリア視察で学んだ食育、「種をまいて育てる」農業体験を
昨年秋、石川県の「スローツーリズム」事業の視察研修でイタリアに行ってきました。イタリアの農家民宿は能登と規模が全然違うんですね。そこで子どもの食育について教わりました。「子どもたちに野菜の種をまくところからさせると、野菜への愛着や興味につながり、野菜離れが解消され、おいしいと思えばまた土に触れる機会につながる」。魚でも野菜でも、小さい時に本当においしいものに触れていないと、感覚的なものは磨かれないと思うんです。田舎だったらできると思うんですよね。 今後は農家として、保育所や親御さんと一緒に、子どもたちと種をまいて野菜を育てる農業体験をやってみたいと思っています。自分で育てた野菜を食べればおいしいと思うだろうから、そこから農業への興味につながればいいなと思っています。子どもたちがまいた野菜を枯らさないためにも、まずは腕を磨かないといけないですね。