町の「未来」を気負わずしゃべろう。~第1回のと未来会議
昨年 2018 年の 4 月、わたしは家族とともに東京から能登町に移住してきました。家族構成は、わたし・夫・小学生男児・2 歳男児の4 人で、能登には親きょうだいや親戚のいない核家族です。東京では会社員としてはたらきながら子育てをしていました。
移住を機に前職は退職しましたが、能登でも少しずつ仕事を増やしながら家族とこの町での生活を味わっています。
町の未来を語る会議なんて重すぎるって...?!
今回役場の方から「のと未来会議に参加していっしょに話しませんか」とお誘いいただいたとき、わたしの最初の気持ちはこれでした。
昨年度からこの会議のことは知っていましたが、 話は重そうだし、わたしなんかが何を話したらいいのかわからないし、うちには小さい子ど もがいて預け先もないしね、と言い訳しつつなかなか足が向きませんでした。
それが、「今回キッズスペースを設けて見守り担当のスタッフがつきます。お子さんをまかせて話し合いに参加できますよ」と言われ、そういえば、子どものいない場で子ども以外の話題について大人と話すことが最近なかったなと思い至り、「町の未来を語るなんて重い」 という不安はそのままに「のと未来会議」に参加することにしました。
■「のと未来会議」とは?
第1回のと未来会議 ~“やりたいこと”から能登の未来を考える日程:2019年7月23日(水)19:00~21:00
場所:能登町役場 参加者一人ひとりが「やりたいこと」を実現できるきっかけづくりとして、 失敗をおそれずに小さくスタートできる場として開催。
第 1 回目となる今回は、2030 年の能登町の「ありたい姿」を参加者それぞれが考え、その後、それらを参加者同士で対話しながら共有する。
心細さを安心に変える自己紹介タイム
キッズスペースに2歳の子どもをお願いして開始時間ギリギリに駆けつけると、会場はすでに多くの人が集まりザワザワとした雰囲気でした。
まず 20 人以上の参加者がひとつの大きな円を作って着席し、会の趣旨説明を聞きます。
まず、進行役のイカれた灰谷さん、A 次郎さん(ともに町役場地域戦略推進室)、さよさん((株)たがやす グラフィックファシリテーター)から、「『対話』という手法を使って、参加 者どうし/参加者それぞれが考えていることどうしに化学反応を起こしたい」ということと、そのための話すときのグラウンドルール(自分のペースで過ごすこと、自分だけで講演のように長くしゃべらないこと、好奇心を持ち、相手の話を否定しないで聞くこと)が説明されます。
そして、ここで起こったことはすべて「起こるべくして起こったこと」だと受け止めよう、 ということも説明されました。
誰かが話すことに正解も間違いもなく、「こうあるべき」という振る舞いも、「こうすれば偉い」という行いもない。これは、自然体でいればいいようで、実はとても難しいのだとこのあとワークを進めながら気づきました。
グラフィックファシリテーターのさよさんからは、「話したことが消えてしまわないようにグラフィックにして記録していきます」というお話も。
このとき「話したことを見える形で記録してくれる人がいる」という安心感とともに、こういうワークに参加するときにいつも「ここでどれだけ勇気を出してしゃべったって、この時間のうちに立ち消えるだけでは」という思いを背後霊のように背負っていたなあ、という自分にも気づきました。
続いてはじめのプログラム、自己紹介タイム。「呼ばれたい名前,趣味/仕事,今の気持ち, 今日の場に期待すること」を書いた紙を持って、まず近くにいる 3 人でグループになり自己紹介をします。
大勢の人がいる初めての場での自己紹介って、何をしゃべろうかそわそわする気持ちでいっぱいになってしまい、他の人の自己紹介が全然入ってこなかったりします。でも 3 人の グループではそわそわする前に自分のしゃべる番が回ってきて、他の 2 人の自己紹介もしっかり聞くことができました。
わたしのいたグループは偶然にもここ1~2年の間に能登に来たばかりの3人だということがわかったので、「共通点ありましたね!」と言い合いな がら、連帯感が芽生えました。 そのあと再び大きな輪の形に着席し、全員がもう一度短く自己紹介をしました。
会が始まる前は「あいつ誰だよ、なんでいるんだよって思われていたらどうしよう」という心細さがあり、輪に座っている人たちを目が合わないように観察していたわたしですが、両隣の人と連 帯感が芽生えた今度は自己紹介している人と目が合っても恐れずに聞くことができました。
最高?最低?どっちをにらむ?
つづいては「ハイドリーム・ロードリーム」というワーク。2030年の能登町の「最高の 未来」と「最低の未来」を各自が紙に書き、ボードに貼りだして参加者全員が見られるようにします。 「最低の未来」には「人が誰もいなくなる」「祭りがなくなる」「海が汚くなる」という意見が多く見られました。
「人や物質がどんな状況であっても住んでる人が『つまんない』と思っているのが最低」という声も。 一方、「最高の未来」は「各世代が集いにぎやかで交流ができている」「住んでいる人に元気・ 笑顔がある」「祭りが減っていない」「自由に海で魚介類がとれる」「愛があふれてる!」などの意見が出ていました。
「最高の未来」と「最低の未来」について意見を出し合ったあと、「最高の未来」の掲示板 と「最低の未来」の掲示板の間のスペースで、現時点で自分は今どちらの未来にどのくらい近い位置にいると思うか立ってみます。
そして近くに立った人たちとそこに立ったわけを話しました。 立ってみて驚いたのは、参加者の立つ位置が見事にばらばらだったこと。そして話してみてさらに驚いたのは、近くに立っている=近い状態に感じている人同士でも、その理由はさまざまだったということです。
ある人が「海が近くにあって食べ物もおいしい環境が大好きだ から『最高の未来』に近い」と感じていても、そばに立っている別の人は「トータルでは『最高の未来』に近いと思っているけど、環境の良さが町外にあまり伝わっていないことだけはもっとどうにかしたい」と思っていたり。
また、「本当はまだまだできてなくてダメだなーと思ってるけど、もっとできる!ってポジティブに考えなきゃ、と思ったから少し『最高の未来』側に寄って、『最高の未来』側を向いて立ちました」という人も。立つ位置だけでもその人の思いが表れていました。
これを受けてグラフィックファシリテーターのさよさんから、「『最高の未来』を目指すか (目標達成型)、『最低の未来』を避けるか(リスク回避型)、どちらか一方が正しいという わけではない。
どちらか一方に偏りすぎては危険で、バランスが必要。どちらの志向の人も未来を描くときには必要で大切な存在」という話があり、まとめとなりました。
くり返し語り合うことで紡がれる小さな発見
次のワークは「ワールドカフェ」。カフェでおしゃべりするように楽しく気軽に、そしてまるで世界中のたくさんの人とおしゃべりしたかのような広がりを作る、対話の場づくりの技法です。
場所を5人掛けのテーブルと模造紙のあるスペースに移動し、自分の好きな席に座ります。 同じテーブルについた4~5人で示されたテーマについて話し合い、誰かの発言で「それおもしろい!」「こんなの知らなかった~」「話を聞いて思いついた!」とピンときたことを、 言葉や絵にして模造紙に自由にかいていくのです。
話し合いは、テーマを変え、席も話す相手も変えながら 3 回行われます。
1)能登町についてここは変えたい!手放したい!!どうにかしたいなあということはあ りますか?
2)能登町、2030 年にあなたは居るとイメージしてください。何でも叶っているとしたらそれはどんなまちですか? 3)1),2)で話したことを思い出しつつ、あなたが能登町の未来に向けてやってみたいな。と思うことはありますか?何でもOK
毎回はじめましてのメンバーの中で、一人で考えること、メンバーに話すこと、メンバーの話を聞くことをくりかえします。
参加者の中には地元の能登高校に通う高校生もいて、能登町の未来を想像したり、自分の進む道と重ねたりして積極的に発言していました。
前のグループで話したことを次のグループに持ってきてテーマをさらにおもしろく深めてくれる人もいて、あっという間に時間が過ぎていきました。
大小さまざまな「やりたいこと」を一望して全員で味わう
3 つ目のテーマを話し合ったあと、小さなことでも大きなことでも、今からすぐに「やってみたいな」とアイデアが生まれた人は、さらに紙に書いて宣言していきます。 さよさんから、「話を聞いてそのアイデア応援したいなと思った人や、ただ見守っていたい
と思った人は何も書かなくてOKです」と、グラウンドルールの「自分のペースで過ごす」 ということのリマインドがあり、わたしはみんながどんなことをやりたいか聞いてみたい気持ちが強かったので、何も書かずに聞くことにしました。
出てきた宣言はこのようなものでした。
●能登の地域のおもしろいこと、それに関わっている人を発見、深掘りして外の人とつなげていきたい。
●宇出津を、呑んで楽しい街にする。
●みなさんとSDGsカードゲームをやってみたい。
●奥能登のまん中で藍を育てる
●IT ツール(5G)を活用した科学的管理でエビを養殖し、東京に販売して大儲け
●子ども・ファミリー向けの滞在型・体験型ツアー
●地元の祭りの絵師として祭りをアピールしつつ、能登の良さも SNS を通して発信したい
●能登モンを他の地域でいっぱい売れるようにする。日本一儲かる町にする
●デザインで能登の魅力を広める
出てきた宣言は貼り出され、もう一度みんなで眺めたり、応援したいと思った宣言には名前を書き込んだりしました。
最後に、もう一度全員で大きな輪になって着席しました。 これから「のと未来会議」は今年度あと4 回行われ、ここから芽生えたいろいろな大きさの 「やりたいこと」の粒を増やしたり育てたりして能登の未来につなげていくことになりま す。
「何をするか」とともに、「誰と一緒にやるか」も重要な要素であることがさよさんから話され、「次回までの時間を使って、自分が応援したいと思ったことを一緒にやれそうな人を次回ののと未来会議にスカウトしてみましょう」とこの先への案内があり、2時間ほどあった会議もあっという間に閉会となりました。
「否定しないで最後まで聞く」ことで得られるもの
今回「のと未来会議」に参加してみて、恐れていた重さのようなものはなく、想像よりもリラックスしてその場を味わうことができました。
対話型ワークショップに取り組んでみて、グラウンドルールのひとつでもある「否定しない で聞く」の扱いについても考えました。 否定しないといっても,「事実と異なることを放置」したり,「わたしとは違う考えだ、と感じた自分の気持ちに蓋をする」ということではないと思っています。
ひとまずは、口を開いている人が言葉を出しきるまで待つこと。そしてその言葉が相手から 出てきたということをそのまま一度事実として受け取ること、なのかな。
これには時間がかかるのと、反射的に口をはさんでしまいたくなるのをぐっとこらえる腹筋力が必要ですが、 待つことで自分の中にはなかった考えと出会えたり、出会ったときの自分自身の反応に気付いたりと、興味深かったです。
他の参加者の発言と重なってしまい思うように話せないことや、あのときこう言いたかったと後から思いついたこともありましたが、「起きたことはすべて起こるべくして起こった」 ならば、次回会う誰かに話すための準備ということなのかもしれないな、と思います。
次回第2回は9月13日(金)19:00~、能登町役場4階で!
「話をするのが楽しそうだから加わってみたい」と思った人、「町の人と一緒にやりたいことがある」と思いついた人、「あなたと一緒にやりたいことがある」と声がかかった人、やりたいことは特にないけどなんだかその場にいてみたくなった人も、ぜひ参加してみてく ださい。
この会議のおもしろいところは、「やりたいことがある人をただ見守ってみたい」という人を歓迎しているところです。ちょっと気にはなるけれど“意識高い系”じゃない自分にはハードル高いなあ、なんて思っているあなたこそ、「見守る」という立場で参加できるチャン スですよ。
そういえば、キッズスペースにいたうちの子は?「ママ」のわたしもどこ行った?
今回、わたしに参加を呼びかけていただいたのには、わたしが「小さな子どもがいる子育て 中のママ」だから、そういう立場の声が欲しいから、という理由もあったと思います。
では会議の場で、果たしてママならではの視点でママにしか言えないことをどんどん言え たか?というと、そうではありませんでした。むしろいろいろなワークに取り組むうちに、 一時は完全に子どものことを忘れていました。
でも、これがわたしにとってはとてもいい時間になったように思います。普段、常に視界の どこかで子どもの安全を確認し、思考の何割かを子どもに使いながら何かをするというこ とが多いのですが、今回安心できる環境で子どもを見守ってもらえたことで、ママの視界に閉じ込められず、ただのひとりの大人としてテーマを考え、話をすることができたなと感じ ています。
子どもの方もキッズスペースのスタッフさんに絵本を読んでもらったり、車のおもちゃで遊んだりして、家でわたしが家事の合間に相手をするよりもはるかに楽しい時間を過ごしたようでした。
企画段階では、会場の一部にスペースを作って参加者の姿が見えるところで見守っていただくという案もあったそうなのですが、今回別室に分かれたことでわたしも子どももの目の前にあることに集中することができ、結果的にお互いにとって心地よい時間になったなと思っています。
(文/能丸恵理子)