能登町定住促進協議会

コラム

column

産地と消費者の橋渡し。魚行商で地域の食卓を豊かにする。

下平真澄さん

1987年生まれ。能登町宇出津出身。高校卒業後、石川県立大学に進学。資源環境学部にて経済的側面から農業を研究する。大学卒業後、富山県内にある食品加工会社への就職を経て、能登町にUターン。現在は父親が経営する『したひら鮮魚店』で働いている。地域の高齢者の食卓を支える「魚の行商」は真澄さんの発案。週5日のペースで能登町全域をトラックで周回している。一児の父。


子育てをする環境としての魅力。

 学生時代から父が経営する食事処の手伝いでよく帰省しており、就職が決まった後も漠然ながら「二十代のうちに能登町に戻ろう」と心に決めていたので、Uターンに対する不安はありませんでした。在学中の出来事で心に残っているのが、遊びに連れてきた友達が能登の自然の美しさに感動する姿を見たこと。それをきっかけに自分が生まれ育った町を誇りに思うようになりました。電車がなくバスの本数も少ないため不便さはありますが、やはり土地勘のある場所なので生活はしやすいです。とくに結婚をして子供ができた現在は、昔馴染みのご近所さんが育児のアドバイスや手助けをしてくれたりと、子育てをする環境として魅力を感じています。親の老後について心配する必要がないのも良いですね。

魚の行商で地域の食卓を支える。

 『したひら鮮魚店』は宇出津港近くにある魚屋です。私は創業から百年以上続くこの家業を継ぐため能登町に移住しました。市場での仕入れ、鮮魚の加工、販売、食事処の経営など仕事内容は多岐にわたりますが、最近はとくに冷蔵設備の整った特注のトラックで刺身や惣菜などを売り歩く、魚の行商に力を入れています。行商は週5日、海沿いから山間部まで毎日30〜40軒の民家を訪問します。当初は魚屋にとって閑散期にあたる夏場の売り上げを伸ばすために始めましたが、想像以上の評判にちょっと驚いています。心がけているのは一人暮らしのお年寄りでも食べ切れるよう、刺身や惣菜を少量ずつ販売すること。値段も1パック500円以内に抑えています。僕にとってのやり甲斐は、お年寄りの方たちが家族のように温かく出迎えてくれること。その恩に報いる意味でも、これから先も高齢化が進んでいくであろう、この町の食卓を支える存在になりたいです。

能登の暮らしに根付くヨバレの文化。

 能登は全国有数の祭りが盛んな土地。夏場から秋にかけて能登半島の約200地区でキリコ祭りが開催されます。また、祭りの日には親戚や職場の仲間など普段からお世話になっている人を自宅に招いてご馳走を振る舞う「ヨバレ」が各家庭で行われます。地域の一体感や団結を大切にする能登ならではの風習ですね。この日は鮮魚店の腕の見せ所。一日で刺身の注文が百人前を超えることもあります。ちなみに私の地元、宇出津では7月に「あばれ祭り」が開催されますが、その日ばかりは大量の刺身の用意をしながらキリコにも参加するなどてんやわんや。一年で最も忙しい日かもしれません。その一方で、能登町に暮らす若者の数がどんどん減り、このまま祭り文化が廃れるのではないかと寂しさを感じることもあります。自分たちの世代で何かできないか。これからはそんなことを考えていきたいと思っています。

1日の流れ

6:00 ホームページ
早朝から店に出てホームページの更新作業をします。宇出津港に水揚げされた新鮮な魚を全国の人たちに届けるため、インターネットの販路拡大にも力を入れています。ちなみに朝はコーヒー派。甘党なので砂糖は多めです(笑)。
7:15 市場
魚を仕入れるため宇出津港近くの市場に移動。8:00頃までセリに参加します。20〜30名ほどいる仲買人の中で最年少。まだまだ勉強中です。
9:00 朝食
軽めの朝食を済ませたら、鮮魚をショーケースに並べたり、行商用の刺身を捌くなどの開店準備に取り掛かります。
14:00 行商
冷蔵トラックに刺身や惣菜を積んで行商に出かけます。一日30〜40軒、一週間に約200軒のお宅を訪問。おじいちゃんやおばあちゃんとの会話はどこかいやされます。
18:30
食事処の予約がある日は、それから料理の支度に取り掛かります。帰宅するのは大体21:00頃。子供の顔を見るのが幸せです。