コラム

column

本物のはちみつを、能登から世界へ。
蜜源づくりの植林や、養蜂の学びの場づくりにも取り組む。

井上恵三さん(いのうえ けいぞう)
井上治子さん(はるこ)

株式会社アピモンド
〒927-0552 石川県鳳珠郡能登町字越坂2-22-1
TEL.0768-74-1083 FAX.0768-74-1330
http://www.apimondo.com/


プロスキーヤーを引退し、能登へ。

プロスキーヤーとして活動してきましたが、現役引退をきっかけに、「思い切って能登に行こう」と移住し、10年になります。

能登に来る前は、新潟でスキー学校をやっていました。冬の間は山のてっぺんに行きますが、夏には山から下り、谷底にいるようなものですから、鬱陶しくなりましてね。それで「広いところに行きたいな」と夫婦で話していました。

父が能登町の小木の出身者で、移住前も小木の海近くに別荘を建て、毎年夏に訪れていました。

軽い気持ちで始めた養蜂、惹き込まれて本格的に。

のどかなところに来たので、「ハチでも飼ってみようかな」とやり始めたら、だんだん惹き込まれていきました。付き合っていくと、ハチは可愛いものなんですね。

そこからは我々の性格もあるのか、日本で権威のある養蜂業界の先生たちとお付き合いをするようになり、外国へ研修に行ったり、講演を聞きに行ったりすることで、全国的につながりが持てるようになりました。2008年からは、本格的に養蜂に取り組み始めました。

日本の原風景・能登で、ハチの越冬に成功。

これまで奥能登で大きな養蜂家が育たなかった理由は、おそらく天候の変化、湿度の高さ、北風が吹く等、色々な要素があると思います。昆虫ですから、非常に微妙なんです。しかし、能登の夏は日差しがあって暖かく、ここには日本の原風景があります。

厳しい条件の能登で、ようやく越冬、生き残りに成功しました。ハチは湿度に弱いので、湿度の管理を徹底し、どこにいても数値を確認できるようにしています。セイヨウミツバチの種蜂は買いますが、自分たちで女王蜂を増やし、越冬させる技術を習得しました。

「今年からどんどん増やしていける」と、自信が付いたところです。ハチたちは、我々の大事な従業員ですから。

花を求めて能登の各地に巣箱を置く。

ハチは、1種類の花が1か所にたくさんあれば、そこで集中して採ってきます。例えば、アカシアが1か所に多くあると、ハチはアカシアだけに行きます。1つの花が多くない場合は、色々な花から集めてくるので、「百花蜜(ひゃっかみつ)」になります。能登町内には、1種類の花だけでまとまった場所はなく、いろいろ混じって百花蜜になります。

今は20か所ほどの場所に土地を借り、箱を置かせていただいています。2~3か月間、あるいは花の時期だけの場合もあります。

周辺からの農薬被害で、巣箱全滅の苦い経験。

2013年に、80箱が全滅したことがありました。周辺の農地で使用していたネオニコチノイド系の農薬が原因だと思います。その年は、蚊、トンボ、ハエ、ゴキブリがいなくなり、鳥の声も聞こえなかったのを覚えています。

地域で持続的な養蜂へ、蜜源づくりから始めたい。

最近では、いろんな方が「巣箱を置いていいよ」と言ってくださるようになりました。ですから、我々もご紹介いただくばっかりじゃなく、蜜源の植林をしていこうと思っています。能登の蜜源環境は決していいとは言えませんが、蜜源植物を植えれば、能登はこれから理想的な蜜源環境になります。

人が関わることで、ハチを増やし、蜜をたくさん採ることが、能登町ではできると思っています。蜜源を増やし、「能登のはちみつ」として発信していきたいです。

世界基準の天然はちみつを、能登で。

日本人は現状、“本当に美味しいはちみつ”を食べていないんですよ。日本に流通しているはちみつの9割は、加工品です。人工的に糖度を高めたもの、あるいは6割のはちみつに砂糖や塩を混ぜ合わせています。

しかし、加工品にすることで、はちみつが持っている本来のビタミン、ミネラル、その他の殺菌力、色々な栄養素が崩壊する恐れがあります。世界のはちみつの常識として、他の要素を足してもいけないし、引いてもいけない。我々は、それを能登でやっていこうと方針を立て、天然のはちみつだけで販売しています。

非常にプレーンなこの味は、日本にしかないんですよ。外国産は花の種類が違い、ちょっとクセがありますが、外国の方がうちのはちみつを食べると、「美味しい」と言ってくれます。

そうした、“本当に美味しいはちみつ”を、能登町の蜜源から採って、「能登のはちみつ」として売り出したいと考えているんです。日本中のみならず、外国にも出していきたい。

本当に美味しいはちみつは、ハチが熟成させて作る。

日本の商売の特徴なのか、例えば4月の桜が開花すると、蜜を採ってすぐに桜のはちみつが出荷されます。いっぽう我々は、桜の蜜を採ってから出荷までに、1か月半以上をかけます。

ハチが蜜を採り、六角の巣房に蜜を溜め、ハチが自分の羽根で水分を飛ばし、その花の蜜の一番美味しいところで「みつろう」を出して蓋をします。そうして熟成させたところで採ってきて、遠心分離機にかけ、ろ過して、ようやく出荷です。効率が悪いことをやっています。

しかしながら、もうこれ以上は美味しくならないという、最高の状態で出荷しています。

耕作放棄地を蜜源に、人が集う学びの場へ。

蜜源を拡大するために、耕作放棄地の有効利用を考えています。先日も、牧場跡地を紹介いただきました。非常に良い環境です。「何に使ってもいいよ」と言われており、木を植えて蜜源として活用させていただくつもりです。シーズン毎に花がいつも咲いていて、みんなが集うような、そんな蜜源にしたいなと考えています。

能登の非常に難しい越冬の条件を逆手に取り、養蜂を学ぶ場にもしたいと考えています。季節が実際に変わっていく環境の中で学ぶチャンスは、養蜂家や研究者にとっても少ないと聞きます。

この環境で学ぶことで、ハチの学校が初めて本物になっていくんじゃないかと考えています。

 

2016.3月インタビュー