能登町では2018年から、参加者一人一人が「やりたいこと」を主体的に叶えていくきっかけづくりを目指して「のと未来会議」を開催してきました。町民と役場、町外から訪れた参加者が共に未来を描き、対話するプロジェクトです。
しかし、3年目となる今年はコロナ禍のためこれまでの場の作り方の再考を余儀なくされました。
会って話すことはできない。でも、オンライン開催に挑戦するからこそできることもあるのでは?
そんな思いを胸に、新しい形で「のと未来会議」が走り出しました。
今年度の「のと未来会議」は「わたしたちの未来の暮らしのヒントを見つける」をテーマとして、11月から全4回開催します。第1回は、能都中学校でのキャリア教育の取り組み事例を通じて参加者それぞれが「仕事」や「未来」を見つめ直し、感じたことについて意見交換しました。
未来を創る子どもたちのために、大人が今できることはなんだろう?変わらなければいけないのは、大人なのではないか…?
参加者からそんな思いも湧きおこった第1回の様子をご紹介します。
のと未来会議2020 第1回の流れ ▼のと未来会議 開催概要 ▼チェックイン ▼中学校が未来の仕事をデザインする!能都中学校でのキャリア教育 ▼グループでの対話 ▼振り返り ▼次回は 12月7日(月)19:00~ オンライン開催です
▼のと未来会議 開催概要
のと未来会議2020 VOL.1「能登町のこれまでの変化 教育×能登町」
日程:2020年11月9日(月)19:00~21:30
場所:オンライン会議システムZoom
主催:能登町役場ふるさと振興課地域戦略推進室
プログラムデザイン・進行:玄道優子
グラフィックファシリテーション:出村沙代(株式会社 たがやす)
▼チェックイン:
一方通行の講演会ではない、一人一人が自分のことを話す時間のはじまり
のと未来会議は、ただ誰かの発信を受け取る場ではありません。自分のことも話し、参加者同士お互いのことを知りながら対話していく中で、考えが混ぜ合わさったり、ふくらんだり、ときには予想もしていなかった方向へスピンアウトしていくのが醍醐味。それはオンライン開催になっても変わりません。
この日、開催時刻の19時になった時点で、ZOOMには能登町内の住民のほか、関東・関西を中心に日本中から40人弱の方々が集まりました。平日の夜に遠く離れた人とも対話できるのがオンラインワークショップの良いところですが、日頃さほど接点のない人といっしょに深く対話をするには、それぞれが「ここでは話をして大丈夫」と安心した状態になれることが必要です。
対話支援ファシリテーター・玄道優子さんの温かくおだやかな語りかけでこの場での過ごし方が案内され、続いて4~5人のグループに分かれたブレイクアウトルームで「わたしについて」話をする時間が始まりました。
1周目は
「私のことを○○と呼んでください」
「仕事や性格など、私はこんな人です」
「幸せを感じるときはこんなとき!」
というテーマで自己紹介を。
ZOOM越しに話すことに慣れたところで、2周目は
「1年後、暮らしの中でどんなことが変わっているといいかな?」
というテーマで話しました。
ブレイクアウトルームから戻り、話したことを全員でチャットにシェアします。
仕事上の変化や、家族やペットの変化を想像した人、地方と都市部の行き来に思いを馳せた人。
出てきた言葉はそれぞれでしたが、コロナ禍で大きく変わったここ1年を味わいながら、「コロナ前の状態にそのまま戻るわけではないんだ」「オンラインとオフラインが融合した良さは続いていくといいな」という思いが多くの参加者に共通していたように感じました。
▼話題提供:
中学生が未来の仕事をデザインする!能都中学校でのキャリア教育
続いて、能登町のこれまでとこれからを考える視点として、学校と行政がいっしょに取り組んできたキャリア教育について話題提供がありました。
お話しくださったのは能都中学校校長の西又浩二先生と能登町役場ふるさと振興課地域戦略推進室の灰谷貴光さんです。
お二人のトーク動画は◆こちら◆
「子どもたちは能登町の未来に可能性を感じていないのか?」という問題意識がはじまり
里山・里海に育まれた豊かな自然資源と文化をもつ能登町。しかし、今後人口は大幅に減少し、高齢化率が高まることが予想されています。
能登町の未来をポジティブに考えるうえでは若者のUターンに期待したいところですが、2017年に中学生73人に「30歳になったとき能登町にいる?」と質問したところ、YESと答えたのはわずか3人。灰谷さんはこの結果に衝撃を受けます。
「未来の創り手となる子どもたちは、この町の未来に可能性を感じていないのだろうか?」
一方、近年“今存在している仕事の半分は10~20年後にはなくなる” “子どもの65%は今存在しない職業に就く”といった予測が提唱されています。
「そしてIoTやAIなど、親世代が子どもの頃にはなかった技術も手の届くところに存在している。場所を問わず新しい仕事が生まれる可能性はあるはず。それなら、中学生自身に未来の仕事を考えてもらえば、その中で未来への可能性を感じてくれるのではないだろうか?」
灰谷さんは校長会へ話を持ち掛けます。そこで「やってみよう」と手を挙げたのが西又校長先生でした。
「イカれた公務員灰谷さんの口車にイカれた校長が乗っちゃったんだよね~」と笑う西又先生。
というのも、西又先生は前任校である手ごたえをつかんでいました。中学生が地元の祭りの運営に参画するという活動を通し、地域の大人に受け入れられ、中学生自身も自信や地元への愛着を深めていく様子を見ていたのです。そこから「中学生が地域で活躍し大人に認められる経験をすることは、将来地元に帰ろうと思うきっかけになるかもしれない」という直感を得、能都中学校でも何かできないかと考えていたところでの灰谷さんからの提案。いっしょに取り組んでいくことになったのでした。
「10年後には半分の仕事がなくなっていたとして、それなら半分の人は失業したままなのか?そうじゃないですよね。きっと新しい仕事を生み出そうとするはず。新しいものを生み出すにはエネルギーが必要です。そのときのエネルギーを持てるように育むことが、いま学校が子どもたちにできることだと思うんです」と西又先生。
中学校でのアンケートによると、「能登町が好きですか」との問いに中学2年生の74%は「好き」と答えるそうです。しかし、「将来能登町に住みたいですか」という問いになると「はい」と答える人は17%。その理由は「やりたい仕事がないから」。
いま子どもたちから見えている仕事にはない、自分がやりたいと思える新しい仕事を作っちゃおう。能登町の外にいる立場から能登町の魅力を伝えたり、まとめ方へのアドバイスをしたりという役割で町外の大学生もチューターとして参画し、2018年から中学2年生を対象として「能登の未来の仕事を考える」という授業がスタート。今年度で立ち上げから3年目を迎えています。
「どっちが正しいか」の対立構造ではなく、どうやったらいっしょにやっていけるのか?を考える
とはいえ、これまでに前例のない行政と共同での授業を進めていく中、すべての大人が初めから前向きに取り組んでいたわけではなかったといいます。
「町外から大学生も呼んで、4か月もの長い時間をかける学習プロジェクトでしたから、これまでになく大掛かりでした。ほかにもやらなければいけない学習はたくさんありますから、わざわざなんでこんな面倒なことしなきゃいけないんだと感じていた教員もいたと思います」と西又先生は振り返ります。
「ただ、今年コロナの世の中にあって、“今ある仕事が揺らぐ”というのを肌で感じた大人は多かったはずです。3年続けてきて少しずつ理解が浸透していたのに加えて、コロナの衝撃は“教科書に書いてある以外の力も育んでいかなければ、子どもたちは将来立ち行かなくなる”という意識を加速させました」。
一方、「役場の方こそどんな反応だったの」と西又先生に話を振られて「すぐ結果が出るものではないので、何やってるんだという評価や反発もなくはない…いや…」と苦笑いの灰谷さん。
「でもすぐ結果が出ないからこそ、コツコツ活動を見える化して発信しながらやり続けないといけないと思っています。それに、正しい・間違っていると対立して、やるかやめるかになるのではなく、どんなやり方ならばいっしょにやっていけるかを考えたい。」
これを受けて西又先生は、「中学生を見ていると、未来に向かって柔軟に変化していけると感じます。それより、子どもを取り巻く大人が考えを変えていくことのほうが難しい課題。何に価値を置いて生きていくのか、“生き方改革”ともいえることを大人一人一人が考え続けていないと、子どもの考えの変化や周りの変化についていけず、受け入れられないかもしれません」と語られました。
子どもが一様に「失敗してもいいんだ」と答えた衝撃
先日、キャリア教育の一環で社会人から中学生に向けたオンライン講演会が開かれました。その中で「失敗を恐れずに新しいことに挑戦しよう」「失敗を次につなげていこう」というメッセージがあったそうなのですが、この日の子どもたちからの感想が「失敗してもいいんだ」という言葉であふれており、西又先生は衝撃を受けたといいます。
「今の子どもたちは“失敗しないことが正しい”って、自分たちが子どものときよりもすごく強く思ってるんだと感じました。失敗しないことを第一に思ってるんだとしたら、新しいことを生み出していくのは難しい。それなら学校の活動のうちから、失敗する経験を積み重ねて、失敗しても大丈夫、またチャレンジしようという意識を持ってほしいなと思います。「能登の未来の仕事を考える」の授業も、その意識を育める場になればいいと思っています」。
この授業は、子どもたちが考えた「未来の仕事」が実現可能かの確度を問うものではありません。活動を通じて、「新しいことを考えるって楽しい」「夢みたいなことを真剣に考えるってすごくおもしろい」ということを子どもたちが実感すること。中学生の間にその体験をすることで、将来発揮できるエネルギーを養ってほしいと西又先生は考えています。
▼グループでの対話:
参加者みずから、さらに深めて話し合いたいことを決めて選ぶ
さて、灰谷さんと西又先生のお話を受けて、参加者どうしで「さらに深めて話し合いたいこと」を出し合いました。
その結果、6つのテーマが出されました。参加者はテーマの中から自分がさらに深く話したいことを選んで、ブレイクアウトルームへと分かれていきます。
ここではそのうち5つのテーマについて、対話を聞きながらライブで描かれたグラフィックをご紹介します。
「10年くらいなら能登に住みたい人」がいるとしたらどんな人?
「10年くらいなら」というお題で始まりましたが、さっそく「10年はハードルが高い」という声が。ライフスタイルごとに、1週間、1年、3年…と区切ってみると、異なる仮住まいのニーズがあるのかも?そして「住んでみたら10年たった」という人も出てくるかもしれない、という話が出ました。
未来を変えるには大人の考えを変えないと?
西又先生からの「失敗しないことが正しいと思う子ども」のお話を受けて、「もっと大人が失敗する姿を見せてもいいのかもしれない」という意見が出ていました。
能登での新しい仕事とは?
授業で中学生が考えたように、能登での「新しい仕事」としてどんなことができるか想像してみました。食や観光など能登の自然資源を生かした仕事が真っ先に浮かびましたが、遠隔授業の技術を生かした教育の仕事や、子どもの発想から大人がインスピレーションを授かるような活動もできるのでは、というアイデアが出ました。
よそもんから見た能登
このグループの対話からは、自治体の単位を超えて、「能登半島」という広い範囲で価値をとらえると可能性がもっと広がるのではないか、という言葉が出ました。
今日の感想をなんでも話そう
中学校でのキャリア教育の事例についての感想を述べあう中で、「どんな子に自分の会社に入ってほしいか?」と考えてみたところ、「自分で課題を設定して解決できる子」という言葉が。それは能登であっても東京であっても変わらない人財要件だという気づきがありました。
▼振り返り:
それぞれが自分の暮らしに今日の気づきを持ち帰る
この体験レポートをお送りしているわたしは、初年度から「のと未来会議」に参加者として出席していました。
物理的に同じ空間に集まって、ワチャワチャ・ガヤガヤと話したり絵を描いたり…というのがのと未来会議の良さだと感じていたので、今年度はオンラインで開催すると初めに聞いたとき、あのワチャワチャの良さは残せるのだろうか?と不安に思っていました。
ところが!この日、初めてのオンライン「のと未来会議」を終えたときの感覚は、これまでののと未来会議を終えたときのそれそのものでした。
ワチャワチャの中で起こっていたのは、町の未来に思いを持つ方々のお話に耳を傾け、自分なりに咀嚼し、言葉に出すこと。それは、オンラインでも実現できるんだなというのがこの夜の驚きと発見でした。
今回の対話の内容は、グラフィッカーがライブで書き留めたものも含め全体がオンラインホワイトボードMiroに描かれています。(上でパートごとにご紹介した画像もMiroからの抜粋です)
今後、回を重ねるごとに参加者の皆さんから語られたことがかき加えられ、Miroの世界がどんどん進化していきます。
このレポートを読んでくださったあなたにも、「のと未来会議」の世界が進化していくのを見守っていただけたらと思います。
「のと未来会議」はまだまだ続きます!
興味を持って、実際の「のと未来会議」にも参加してみようかなと思った方はぜひ第2回にお越しください。
能登町内のみなさんはもちろん、オンライン開催ですので遠方にお住まいの方もお待ちしていますよ!
のと未来会議2020 VOL.2 魅力編「移住者/訪問者/共創パートナー…」
日程:2020年12月7日(月)19:00~21:30
場所:オンライン会議システムZoom
(お申込みの方にURLをお送りします。くわしくはこちらのFacebookイベントページをご覧いただくか、参加申込フォームから直接お申し込みください。)
(文/能丸恵理子)